曲名探偵団

X JAPAN （歌）

東京五輪でメダルが期待される選手が聴いている勝負曲

　東京オリンピックのボクシングで、日本女子史上初の金メダルを獲得した入江聖奈（20）＝日体大。3日の決勝では、ロックバンド「X　JAPAN」の代表曲「紅」が流れる中で、世界の頂点をかけたリングに向かった。明るい笑顔がトレードマークの入江のイメージとは異なるロックナンバーを入場曲に選んだ背景には、五輪出場をかなえられなかった仲間への思いがあった。

　♪紅に染まったこの俺を慰める奴（やつ）はもういない――。激しいサウンドとボーカル・Toshiさんの高音ボイスが会場に響く中、入江はニコニコしてシャドーボクシングをしながら決戦の場に歩を進めていった。

　7月24日の初戦では、カナダ人の女性歌手・アヴリル・ラヴィーンの曲「ガールフレンド」に乗って入場した入江。だが、31日の準決勝からは一転して「紅」を使った。変更の理由について、「合宿の思い出の曲だから」と説明する。

　ボクシング女子の東京五輪代表には、入江とフライ級の並木月海（22）＝自衛隊＝が選ばれた。一方で、2人の他に代表候補に選ばれていた3人のボクサーは、今年6月にフランスで予定されていた世界最終予選がコロナ禍で中止になり、祭典への道が閉ざされてしまった。「紅」は、そのうちの一人であるウエルター級の鬼頭茉衣（24）が、強化合宿中によく口ずさんでいた曲なのだという。入江は「3人は夢が断たれても練習パートナーになって支えてくれた。3人がいなかったら今の私はない」。その思いを「紅」に込めた。

　鬼頭は7月31日、自身のツイッターに、入江が準決勝のリングに向かう動画とともに「この曲はうちが合宿中に歌いすぎて、この曲を知らなかった（並木）月海から『鬼頭さんの歌う紅が頭から離れないのでやめてください』とクレームが入ったほどの、代表チーム思い出の一曲です。そんな曲を選んでくれておおきに」と投稿。入江が金メダルを獲得した直後にも「夢を、感動を、ありがとう‼」とつぶやいた。

　入江は試合後、「3人にありがとうと伝えたい。『紅』で入場できて良かった」。マスク越しでも分かる笑みを浮かべていた。